『田園の詩』NO.64 「宅配便交流」 (1997.3.4)


 小学校の前に生活雑貨を扱う小さな商店があります。田舎のこと故、近所の人が
ちょっとした買い物をするくらいなのですが、この商店が一番賑わっているのは、宅配
便の取り扱い業務のようです。

 ピークは過ぎたとはいえ、お米や季節の野菜・果物がいっぱい詰められていると思
える段ボール箱が店の前に毎日沢山積まれています。

 ほとんどが、都会で暮らす子供たちに送る実家の両親からの荷物のようです。取り
扱い量は都会の店よりずっと多いのではないでしょうか。

 私も、完成した筆を送ったり原料を取り寄せたりする仕事上のことや、当地の産物を
親戚や友人に届けるために、この便利になった宅配便(郵便局の荷物便も同じように
便利になりました)を大いに利用しています。

 本場を遠く離れた職人(私の場合、奈良を離れた筆職人)が、九州の片田舎でも
仕事ができるのは、物流が発達したお陰です。

 私に限らず、田舎に工房を構えている工芸仲間たちも同感のようです。ある陶芸家は、
今日電話で注文すれば、明日、信楽や有田から陶土が届くといっておりました。

 ところで、年間を通して親戚や友人と何度も荷物のやり取りをしているのですが、その
中に、まだ一度も会ったことのない長野県のMさん(家族)との宅配便交流があります。

 大阪の友人が私の筆をMさんに差し上げたのが縁で、Mさんから私にもお礼のリンゴ
が沢山送られてきたのです。恐縮した私達はお返しにミカンを送りました。

 これを機に、宅配便交流が始まりました。Mさんからは、リンゴ、桃、干し柿、本シ
メジなどが何度かに分けて定期的に届けられます。当方は、ミカン、乾しシイタケ、
海産物、焼酎、筆などを送ります。女房と「顔を合わせたこともないのに面白いナ、
こんなのも楽しいナ」といいながら、セッセと荷造りをします。


      
      荷物の返礼の便りの中に、荷物を開いた時の写真、その野菜で作った料理の
       写真が 添えられてきます。ご馳走にうらやましくもなります。
       (東京の弟夫婦からのもの)


 Mさんは長野県中川村、当地は大分県山香町。町といっても山の中です。いつか、
彼の地を訪ねて田舎比べをしたいと思っています。多分、こちらが勝つでしょう。
                   (住職・筆工)

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